- 買換えや交換特例の譲渡所得を求める計算問題はよく出されるが…
- 近年取得費・取得時期問題は頻出
- 買換資産の取得費の計算
- 特定の事業用資産の買換え特例(80%繰延)の買換資産の取得費の計算
- 何のために買換資産の取得費や取得時期を検討するのか
- 過去の出題例
買換えや交換特例の譲渡所得を求める計算問題はよく出されるが…
FP1級学科試験応用編の第4問不動産分野の問題では最後の3問目によく居住用財産(マイホーム+土地)や事業用資産(賃貸住宅と土地など)の買換えや交換の計算問題が出題されます。
この問題の解き方は定番なので、特に問題ないと思います。
一応算出過程を書いておきます。
① 収入=譲渡資産の譲渡価額-買換資産の取得価額
② 取得費+譲渡費用=(譲渡資産の取得費+譲渡費用)×①/譲渡資産の譲渡価額
③ 譲渡所得=①-②
今回取り上げるのは、買換え特例などで取得した物件を将来譲渡するときに必要な「買換資産の取得費」や「買換資産の取得時期」はどうなっているかという問題です。
マイホームを新しく買い換えたけど将来それも売ってしまうかもしれません。買換えた後のお話です。
近年取得費・取得時期問題は頻出
近年のFP1級学科試験で取得費・取得時期問題は非常によく出題されています。2021年は全部の回で何らかの形で出題されています。
再掲。もう一度整理します。
— みにまる@FP1級勉強中 (@minimalgblog) April 18, 2022
取得費→下記全部引き継ぐ
取得時期→①固定資産の交換と②収用買換え・交換のみ引き継ぐ(引き継ぎOKの理由は経済を活性化させたいからと益山先生は仰ってました。)
2021年5月(基礎)2021年9月(応用)22年1月(応用)と連チャンで出てます。 #fp1級 https://t.co/d0rV6eft8E
買換えた時の税金も心配だけど、さらに将来処分するときの税金が有利になるか不利になるかはクライアント様にとっては気になる問題ですので、FPとしてもホットなテーマかと思います。
買換え・交換特例の場合の取得費・取得時期引継ぎ問題は、結論から申しますと、下記の表で対応可能です。
各特例 |
取得費 |
引継率 |
取得時期 |
---|---|---|---|
特定居住用財産の買換え |
引き継ぐ |
100% |
引き継がない |
特定事業用資産の買換え |
譲渡資産と買換資産の低い方を引き継ぐ |
80% |
引き継がない |
立体買換えの特例 |
引き継ぐ |
100% |
引き継がない |
固定資産の交換の特例 |
引き継ぐ |
100% |
引き継ぐ |
収用交換・買換えの特例(課税の繰延の特例) |
引き継ぐ |
100% |
引き継ぐ |
買換資産の取得費の計算
きんざいの合格ターゲットには詳しく書いていませんでしたが、きんざいの分冊テキストに買換資産の取得費の算出式が書かれていました。テキストの記述だけだと、少しわかりにくいので自分で図解してみました。
譲渡価額>買換資産の取得価額のとき
譲渡価額=買換資産の取得価額のとき
買換資産の取得価額>譲渡価額のとき
買換え特例では買換資産の取得費は譲渡資産の取得費を引き継ぐ(課税の繰延)ので、高く買換えた場合(③の例)は引き継いだ譲渡資産の(取得費+譲渡費用)に自己資金(買-譲の差額)を加えて取得費とする。
特定の事業用資産の買換え特例(80%繰延)の買換資産の取得費の計算
特定の事業用資産の買換え特例(80%繰延)のケースも一応参考としてまとめています。
きんざい直前対策セミナーでの解説
実はきんざいセミナーの益山真一先生のレジュメによると、特定の事業用資産の買換え特例の場合はもっと簡単に取得費を出すことが出来ます。考え方としては上記の式とやってることは同じですが、課税繰延額を圧縮限度額として捉える解き方です。(個人の方も圧縮記帳という概念はありませんが、同じ考え方で解けます)
この解き方はテキストやTACの問題集などでも見たことがないので益山先生オリジナルのアイデアかもしれません。なので有料セミナーのオリジナルコンテンツを載せるのは著作権的にも良識的にもよろしくないのでここでは載せません。セミナー受けた方は益山先生のレジュメp.50~p.52をご参照ください。
何のために買換資産の取得費や取得時期を検討するのか
何故買換え特例の買い換えた直後の譲渡所得や所得税(+住民税)の問題だけでなく、取得費が論点になり得るのかと言うと、クライアント様にとって買換えた時点では節税できて良くても、買換え特例はあくまで課税の繰延です。将来買い換えた新しい物件を処分する場合には取得費を引継くことで将来の譲渡所得の税金には不利になることもあり得ます。
「取得時期を引き継ぐ・引き継がない」は将来売却する時に長期譲渡所得(20.315% 10年超では軽減税率)か短期譲渡所得になるかどうかで、税率が異なり有利不利に影響します。10年超所有しないと居住用財産の長期譲渡所得の軽減税率(14.21%)は適用できません。
また事業用資産の買換えや立体買換えの特例では、課税繰延で譲渡所得の負担は減りますが、取得費が下がることで翌年以降の減価償却費も下がり不動産所得の負担が増えることも考えなければいけません。(参考:過去問2022年1月応用編問62:問62 天空率による斜線(高さ)制限の緩和・優良住宅用地の特例・立体買い換えの特例 2022年1月応用【1級FP過去問解説】)
将来買換資産を売却する可能性も考慮して長期的な視点で検討することが、求められます。
このように買換え特例を利用した場合、買換えしたときの税金はなくても、その後その買換え資産を売却した場合には当初の売却時に3,000万円特別控除を適用した方が有利な場合があります。買換え特例を選択する場合は買換え資産を10年を超えて所有するという長期的視野で税法上の適用を考えなければなりません。
【三井のリハウス】譲渡所得の計算方法 - 特定居住用財産の買換え特例について|2022年(令和4年)度税金の手引き
この辺りの長期的な有利・不利の検討の話はきんざいの分冊テキスト('21~'22年版 FP技能検定教本1級 4分冊 不動産)のP.152~P.153の例題に出てきます。
'22~'23年版 FP技能検定教本1級 4分冊 不動産
過去の出題例
本試験ではこの買換え後の取得費に関する問題は基礎編の選択肢の一つに出ています。(2018年9月学科試験 問40)問40 居住用財産の買換えの特例 2018年9月学科試験|FP1級ドットコム
TACのあてる予想模試の第一予想(5月試験・1月試験用)にも出ていました。(基礎編問40)
2022年9月試験をあてる TAC直前予想模試 FP技能士1級[TAC渾身の予想問題3回分](TAC出版)
応用編の計算問題でここまで出題されるかはわかりませんが、分冊テキストや過去問基礎編で出ている以上、一応おさえておいた方がよいかと自分の整理のためにもまとめました。
練習問題があまり過去問にないので参考の計算問題として三井のリハウスのページとTKCのページ、国税庁のページを貼っておきます。
【三井のリハウス】譲渡所得の計算方法 - 特定居住用財産の買換え特例について|2022年(令和4年)度税金の手引き
特定の事業用資産の買換え特例を活用した対策(2) | 相続・経営ガイド | 賃貸住宅経営 | 積水ハウス
No.3362 居住用財産の買換えの特例を受けて買い換えた資産の取得価額とされる金額の計算|国税庁